我々は、洪水がもたらす予想外の損失から経済的に守られていることが大切です。その達成に向け、保険業界は2側面からの前進を図っています。ひとつは、洪水リスクの理解を深め、知識を共有すること。二つ目は、リスクに基づき、費用対効果の高い革新的な保険ソリューションを提供することです。これらは、契約者自身が潜在的なリスクを注視し、正しいリスク軽減・移転方法を選択し、個人・社会の回復力を高めることにつながります。

日本の洪水リスクの展望

降雨量が多く、山岳地形の日本。河川が急勾配の地形を流れ、海へと下流するなか、その流れは突如予測外の動きをとることがあります。結果、洪水は日本における主要な自然災害リスクの1つとなってきました。日本の年間降雨量は世界平均の2倍、約1,800ミリメートルにおよび、そのほとんどが梅雨と台風シーズンに集中しています。そのため、政府は過去数十年に渡り、堤防やダム等インフラ事業に巨額投資するとともに、対策を講じてきました。

これらの対策は、過去何十年にわたり人々に安心を提供してきました。この信頼は、2019年の台風19号で揺らぎ始めます。この台風は142河川の堤防決壊をもたらし、その結果、住宅5万3千軒が浸水しました。総額80億米ドルにおよぶ台風損失のうち、その約半分が浸水被害に起因 するものでした。仮に、少しでも雨量が多く、異なる場所で降雨が起きた場合、さらに損失が拡大した可能性もあります。

東京、名古屋、大阪のような人口集中地域では、インフラの老朽化により台風による高潮・洪水への脆弱性が特に増しています。河川付近や、開発された河川流域、沿岸部や埋立地に人が多く住むことで、そのリスクはさらに増加し、複雑化します。もちろん、追加のインフラ投資や適切な土地利用計画が被害軽減に貢献することはあるでしょう。ただ、台風19号の事例に見られるように、自然災害の威力を前に、どんな優れたインフラ設備も耐えきれない場合が出てきます。さらには、気候変動は今後の災害規模を拡大する可能性が指摘されます。日本銀行によれば、日本の洪水被害は、2100年に約9倍に達すると試算されています。一方、積極的な気候変動対策が世界規模でおこなわれた場合、その影響は緩和できるとしています。

洪水リスクをより理解するために住居レベルの集積データが必要

自然災害の評価、並びにリスクに基づいた保険ソリューションを開発するには、質の高い集積データが不可欠です。特に、局地的なリスクである洪水の場合、その必要性はさらに高まります。河川から100メートル距離が違えば、浸水可能性は全く違うものとなることがあります。従来採用されていたポートフォリオレベルの統計分析では、洪水リスクの理解に十分でないばかりか、リスクの高止まりが懸念されるなか、(再)保険業界が継続的に洪水保険を提供し続けることが難しい場合も出てくると弊社は考えます。今後も、社会保障が継続され、引き続き保険の提供が維持されるには、流域毎の確率論的洪水リスクモデルが開発されることが必要です。そのモデルには、現在、そして将来の環境・社会変化が反映されると同時に、容易に入手可能な精緻なデータによってモデルが常に更新され続ける必要があります。

この点、現時点での業界のモデリング能力は十分と言えません。過去の地点毎の浸水情報、契約の集積データと支払条件、そして損害金の支払実績をつなげる、良質のデータベースは存在しません。2011年のタイ洪水は、ハイテク施設が集中する工業団地で数十億米ドルの予期せぬ損失をもたらし、ことさら海外集積を把握する難しさを浮き彫りにしました。南アフリカで今年5月に発生した洪水も、世界規模で良質かつ高解像データを取得していく重要性を強調しています

顧客サービスのイノベーション

刻々と変化する洪水シナリオに対し、そのシミュレーションに役立つデータを日本の保険業界が開示、共有する方向に動きつつあることは喜ばしいことです。弊社でも、CatNet® 地理情報プラットフォームの拡充を通して、洪水リスクの更なる理解と意識向上に取り組んでいます。地理情報技術の進歩とデータ利便性の向上は、リスク評価の基盤であり、 保険会社が洪水やその他災害リスクについて確信をもって評価し、引受することを可能とするものです。

大規模損害の発生に際し、契約者に効率的かつ迅速に損害金を支払うことは保険の最優先事項です。弊社は、グローバルかつリアルタイムの衛星画像技術を駆使し、パートナー保険会社とともに、洪水の影響を速やかに推定し損害金を支払うサービスを開発しています。

今後の見通し

2021年、世界で50超の大規模洪水が発生し、総計800億米ドルに及ぶ経済損失が発生しました。この損害規模を鑑みれば、洪水は、地震・台風同様に、最大の注意が必要となる最も懸念すべきリスクとなりつつあります。  

洪水被害をこの世からすべて無くすことは不可能です。保険会社とのパートナーシップを通して、良質のデータ把握と災害の理解に引き続き注力し、今後も、保障内容のより広い、手頃かつ透明性の高い保険商品の拡充をサポートしていきます。物理的なインフラに加え、日本の社会とビジネスが災害から安心して再建・回復するために、保険はその重要な鍵を握っているのです。

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