日本:高齢化社会における保険会社のビジネスチャンス
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本記事の出典はAsia Insurance Review 2024年9月号に掲載された、Sarah Si記者によるインタビュー記事です。
世界経済フォーラム(WEF)によると、2021年時点で、日本人の1,450人に1人は100歳以上でした。WEFによるとその後2023年には、10人に1人以上が80歳以上、「人口のほぼ3分の1が65歳以上」になったとされています。
また2023年の記者会見で、日本の首相は「2022年の出生数は799,700人で過去最低」と述べました。ニュースチャンネルCNNによると、日本の出生率は1.2に低下しているとのことです。
スイス再保険会社日本支店のライフ&ヘルス再保険部責任者のエイドリアン・ストーンズ氏は、Asia Insurance Reviewのインタビューで、「日本は人口の減少と高齢化が進み、独身者が増え、出生率が低下しています」と語りました。
ビジネスチャンス
「次の12ヵ月で新たな機会を見つけることは難しいですが、社会的な変化を反映しつつも人口動態の変化に大きく左右される長期トレンドが、当面の間確実に続くと考えています。
日本の生命保険市場は『厳しく、競争が激しい、成熟した』市場です。これらのチャンスを活用するためには、保険会社はバリューチェーンを活用して利益を生み出し、『国内で勝利する』必要があります。これには、『金融の再構築と、技術を活用したイノベーション』が含まれます」と、ストーンズ氏は述べました。
例えば、日本人が人生100年時代への備えを進めるなか、医療費や関連費に対する補償ニーズの拡大により、健康保険市場は他の分野よりも急速に成長すると同氏は考えています。
「消費者の商品タイプのニーズは、がん補償などの従来の主流タイプから、長期介護商品や障害に対する補償などの新しいニーズにも拡大しています。
これらすべての変化の中心には、保険会社が若い消費者を人生の初期段階から惹きつけ、真の顧客生涯価値を生み出す新しい方法を見つける必要があるという切迫したニーズがあります。
日本の人口動態や社会の変化により、消費者は『正規雇用の仕事に就き、結婚し、子供を持ち、引退するといった従来の人生の節目を必ずしも通過するわけではない』」と、ストーンズ氏は言います。
「将来の未開拓競争市場は、保険会社が消費者の需要の変化に合わせて進化し、ライフスタイルに合わせてカスタマイズされた柔軟なソリューションを提供することで生まれます。消費者中心モデルへの移行は、より個別化された魅力的な消費者体験を提供するイノベーションの必要性も明示しています」と彼は述べました。
規制上の支援
「日本の金融庁(FSA)は、生命保険や健康保険分野を含む金融業界のイノベーションを促進するための規制や活動を実施しています。
例えば、保険グループがインシュアテック子会社を運営することを認める規制を策定しました」とストーンズ氏は語ります。金融庁はイノベーションを支援するためにフィンテック・イノベーション室を設立しました。
また、2024年3月には、「Japan Fintech Week」を初めて開催し、世界のフィンテックコミュニティを集めて金融サービス、公共政策、技術の発展に関する問題について「交流し、連携し、協力する」場を提供しました。
価値の解放
ストーンズ氏は、AIや生成AIは「生命・医療保険業界でテクノロジー活用の限界を押し広げるという点で大きな関心を呼んでいる」一方で、日本はまだ「模索段階」にあると言います。
現時点では、日本の保険業界は「主に限定的な小規模の内部『テスト・アンド・ラーン』の試行を通して、AIと生成AIの適切な使用事例を見極めようとしています。その一例にウェアラブル技術があり、「膨大な量の潜在的に予測可能な健康指標と行動」データを受動的に収集することができる」とストーン氏は述べています。
また次のようにも述べています「例えば、スイス・リーは医療統計のデータサービスプロバイダーと提携し、ウェアラブルデータを使用したリスク計算のイノベーションを推進しています。リスク計算モデルが共同開発され、より迅速かつ正確な引受と価格設定が可能になりました。
この連携により、臨床的要因と睡眠や運動などの生活習慣要因を組み合わせた包括的な保険商品が開発され、日本の生命・医療保険市場における商品提案を強化することができます。
また、日本でのウェアラブル端末利用の増加が、消費者をより健康的なライフスタイルへ導くという、より重要な保険会社の役割を果たすチャンスを提供することになります。」
AI
ストーンズ氏によると、日本の保険会社は「加速する労働力不足に直面している」ため、アンダーライターの育成が課題となっています。
「その結果、ストレートスループロセッシング(STP)に基づいて引受可否を決定するケースが増えており、アンダーライターが単純な案件から引受をスタートする従来のトレーニング手法が省略されています。
新商品導入後の処理の「ピーク」に効果的に対応するだけでなく、申込を明確かつ迅速に評価する必要性が、課題をさらに複雑にしています」と彼は指摘します。
ストーンズ氏は、これらの課題に取り組むことで、デジタル技術を活用したソリューションが保険バリューチェーンの効率性を高める可能性があると考えています。
例えば、彼によるとAIを含むデジタル技術の使用は、「保険会社が革新し、商品提案を強化し、改善された顧客体験を提供することを可能にします。
さらに、データと分析を保険業界にとって効果的にするためには、テクノロジーとリスク知識の統合が不可欠です」ストーンズ氏は「テクノロジーは最終的に、保険業界が人間の介入を必要とするタスクを自動化し、膨大なデータセットを分析して結論を導き出し、リスク評価と価格設定を改善することを可能にするでしょう。これにより、保険がより利用しやすく手頃な価格になることで、消費者に価値をもたらします」と述べました。
インシュアテックとイノベーション
保険会社はどのようにインシュアテックと連携して新商品を革新・創出ことができるのでしょうか。
「日本のインシュアテック分野は、他の先進的な保険市場ほど活発ではないかもしれませんが、日本でもますます注目を集めており、顧客の利益のために探求し活用される機会がまだ数多くあります。また、保険会社の効率性や生産性の向上に対応しています」とストーンズ氏は述べました。
例えば、インシュアテックは保険業界の古くからの課題に新しいアイデアや視点をもたらすと彼は考えています。
また、デジタルトランスフォーメーション(DX)も日本の生命保険会社にとって最優先事項であり、その傾向は「しばらく続く」と予想されると彼は述べました。
「新しい、評判のテクノロジーを基盤にしたソリューションは、特定の顧客ニーズや使用事例に深く根ざしている場合にのみ機能する」傾向があるため、これに効果的に対応するには保険会社が、消費者、業界、社会全体にどのような新しい価値を生み出したいかを検討する必要があります。
この揺るぎない顧客中心主義こそが、保険会社とインシュアテックの連携の最適化を可能にします。両者が価値を認める目的が一致していることにより、インシュアテックと保険会社の間によく見られる文化や運営モデルの違いを克服することができるのです」